【17】

■ 続・素晴らしかった『光洋マイムライブ』

―― 後半の白眉だと思ったのは、勝手に名前をつけたんですが、「カセット犬」(笑)。
  やや大きめの携帯電話・・・ぼくのところからはそう見えたんですが・・・それに向かって、光洋さんが犬の声で盛んに何か吠えている。クンクン言ったり、次第に白熱して喧嘩みたいになったりする。状況は定かではないにしても、まずこれだけで何だかおかしいわけです。
  ひとしきり犬の声が終わると、携帯電話に見えたものが実はラジカセだということがわかり、それを犬に見立てましたね。アンテナを立ててリボンをつけて尻尾にしたり、耳をつけたりして。そして、犬になったラジカセを上手に置くと、テープを再生しはじめました。さっきの犬の声は「録音」だったということが、初めて観客にわかったわけです。
  光洋さんがパントマイムを始めると、そこにある物語が浮かび上がってくる・・・。どういう物語でしたっけ。

光洋 犬がないてるから、ぼくが「ちょっとこっちへおいで」って言うと、犬がじゃれついてくる。犬と散歩に出ると、おしっこをする。また歩いていると、お客さんの一人にからんで、「もうやめろよ」というと、すねる(笑)。また、だんだんぼくになついてきて、最後に吠えて終わり。

―― 録音した犬の声と、いま行われている演技とが見事にシンクロして、素晴らしかったですね。
  あれは、本当に舞台で録音した音を使ったのですか。

光洋 そうですそうです。

―― 録音するときは、頭の中で物語をシュミレートしながらやるわけですよね。

光洋 もちろん。

―― その場で多少ちがったりするわけですか?

光洋 もちろん違いますね。二日目の方が気持ちに余裕があったから、間が長かったんです。おしっこしてる長さとか。

―― こんな素敵なアイディアはどこから湧いてくるんですか?

光洋 昔、一〇年くらい前になりますか、「万有引力」っていう劇団の芝居を見たんです。ある場面で、俳優が独り言で台詞を言うんです、間を空けながら。ひとしきりしゃべって、またしゃべりだすと、さっきの台詞がどこかのマイクで録音されていたらしくて、会話になるんです。「ああ、面白いなァ」と思って。それがずっとどこかにあったんでしょうね。
  自分が物を使ってなにかやるということを考えたときに、それを動物に見立てた時点で自分の中ではOKでした。
  ただ、これに関しては、一番不安があったんですよ。というのは、「アイディアだけじゃん」というのがあって、身体自体はほとんど何も使ってないですから(笑)。

―― 犬を引っ張る演技があったじゃないですか。

光洋 引っ張るも何も、ただ引っ張られるだけですから。せいぜい(綱の)持ち方だけ、こう(指五本で)持ってたのが、こう(三本指で)もった方がちっちゃい犬らしいな、ということぐらいで(笑)。
  その割にみんなが良かったと言ってくれたのは・・・・・・やっぱりギャップがあるなァと(笑)。

―― それから、クラウンの舞台なんかには時々ありますが、舞台に客を置き去りにするという演技(?)。手回しのオルゴールをお客さんに持たせて、「回してください」と頼んで、そのまま引っ込んでしまうという(笑)。楽譜が幅広の紙テープのようなものに打ってあって・・・

光洋 あれは自分で打ち込んだんです。玉川上水の「ロバハウス」というところに行って買ってきたんです。会の二週間ぐらい前に行って、「穴の空いた楽譜ないですか?」と言ったら、「自分で打ち込んでください」と言われて・・・。

―― 紙が次第にロードしていくので、あとどのぐらいで終わりになるというのがわかるんですね。残り少なくなっても光洋さんが出てこないので、持ってるお客さんは不安になってくる。それが見ている観客にもわかって、おかしかったですね。最後の方でテンポが遅くなったりして。
  それから、助演といいますか、お手伝いで出演された加納真実さん。演技と演技との間の「つなぎ」を担当したり、着替えを手伝ったりしていました。とてもいいキャラクターですね。

光洋 早稲田の「舞夢踏」というグループに入っていて、ぼくのクラスにも来ているんです。
  今回、彼女には演技的なことは何も言ってないんです。具体的なことだけ。「パネルをこうしてくれ」というようなことだけですね。どういう風な顔つきでとか、どういう風にいてくれ、ということは何も言っていないんです。

―― キャラクターに関わることは何も言わなかったと。

光洋 「キューピー」(譜面台のような黒い板を使い、その後ろから人形劇のようにキューピー人形が身体の一部を出す演技)の前に、汗をかくので着替えようということになったんです。でもそのためには、加納ちゃんに(舞台に)いてもらうしかないんです。
  あんまり色んなことをして欲しくなかったんですけれども、前日に・・・

―― 前日に。

光洋 いいでしょう(笑)。前日に、「今までここ一分だったけど、二分か三分ぐらいに伸ばして」って言ったんです。

―― 光洋さんの演技の邪魔をせず、かつ、客を飽きさせない演技でいなければならないと思いますが、それを見事にこなして良かったですね。「今ここにこうしていることがいたたまれない」という感じの押さえた演技、ぎこちない、おどおどとした演技で、笑いを誘っていました。おどおどしたスキップがとても素敵でした。

光洋 彼女にはほんとに助かりましたよ。

―― 舞台全体のプランとして面白かったのは、着替えなど次の演技のための準備作業を舞台奥の薄暗がりの中でやりましたでしょう。通常は楽屋でやることを、お客さんに見せてしまった。これによって、観客を「制作過程に巻き込む」という効果があったと思いました。

(平成13年08月)

――つづく――

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