【15】

■ 物を使う

光洋 いま一番気になってるのは、無対象はいまちょっと置いておきたいなと。パントマイムというと無対象というイメージがありますが・・・。

―― 無対象というのは何ですか?

光洋 無対象というのは、舞台上に何もないのに、(演技で)相手をつくったり物をつくったり・・・。それがパントマイムの基本的な形式なんですけど、自分の中でそれは一回置いておいて、物を使ってみようと。
  いま人形劇に興味があるんですよ。人形劇といっても、いわゆるオブジェクト・シアターといってるんですが、手足がある人形よりも、例えばここにあるコーヒーカップが人間みたいに見える瞬間というのが、あるんですよ。(手元にある紙ナプキンをいじりながら)紙は紙ですけど、それをこういじることによって、これがこう人間になったり・・・。それでまた鼻をかんで、紙に戻ったりと・・・。

―― なるほど。フィリップ・ジャンティなんかはそういう舞台を展開してますよね。人形じゃないものが人形になって、また物に戻ってしまう、ということをやったりしてますね。

光洋 そうですね。人間と、人形というか物が、同価値のものとしてあって、そのときにどっちがクローズアップされるかで、人間が出たり、人形がでたり、それで場面が変わっていったりする。
  ぼくはまあ、人形劇じゃないんで、最終的には人形よりも使っているぼく自身を見せたいんですけどね。そういう興味はすごくあるんですよね。
  それから自分の中では、今までやってきたことと全然違うことではなくて、その延長上にあるものなんです。『十時劇場』のときもそうでしたが、ぼくは行き詰まると形式を変えるんですよ。 それから、ACCの大島(幹雄)さんと付き合うようになって、その影響もあるんですけれども、クラウン芸にすごく興味があって、そういう公演ができたらいいなって、すごく思ってるんです。

―― その気になってきましたか(笑)。楽しみですね。

光洋 かといってクラウン芸といっても、自分がアクロバットやったりジャグリングをやったりするわけじゃないんですけれども、ほら、クラウンの人は物を使いますから。

―― 光洋さんも、手のついた帽子を使ったりするじゃないですか。あの延長で・・・。

光洋 そういうことです、あの延長で。
  それから、ひとこと言っておきたいのは、『十時劇場』から現在に至るまで、ずっと一緒にやっている男がいるんです。新堂雅之というんです。
  もともとぼくがいたパントマイムの劇団に後から入ってきて、ぼくが辞めてすぐ彼もやめたのかな。稽古場を一緒に使っていて、ぼくが作品をつくっているときに、たまたまそこにいるから一緒につくり始めたんです。
  何がいいかというと、価値観が一緒なんです。だから、ぼくが面白がることは彼も面白がって。一人でやっているとわからなくなっちゃうんですよ。外からどう見えているのかとか。
  価値観が一緒だと、向こうが言うことが結構・・・「ああ、やっぱりここが長いんだ」とかね。話しながら作ったりしてます。話して、やってみて、また話してという繰り返しで作ってますから。

―― 光洋さんの芸を陰で支えている功労者というわけですね。

■ 作品のつくり方

光洋 プランBの人と話したときに、「即興でやりましょうよ」と言われたんです。「即興ってやったことないなぁ。でも練習ではいつもやってんだなぁ」と思ったんです。
  だから、即興をやりたいんです。キーワードはクラウンなんです。例えば練習で、靴ひとつ舞台上にあった、椅子一つ舞台上にあったという状況で遊んでみるというのは、ウォーミングアップとしてはやったりするんです。あるいは作品をつくるために、キーになる物を持ってきて即興をやってみたりするんです。二〇分でも三〇分でも、一時間ぐらいずっとやってたりするんですが、それが人前ではできないんです。でもそれが、できたらいいなと。
  今は(舞台では)こわいから起承転結をつけたりとか、なにか用意しておいたりするんです。「これは今おもしろいナ」って思ってる瞬間もあるんです。それに尾鰭をつけたり背鰭をつけたりして作品につくるわけですけれども、そういうものが全くない状態で、例えばお客さんからお題をもらったりとか、物を借りてやったりとか、それができないんです。

―― それは、やっちゃえばいいんですよ。

光洋 そうなんですよ(笑)。だから度胸なんですよ。
  今まで作品を組み立てることをやってきましたが、即興というのは自分を組み立てるというか、自分の出方とか、自分のい(居)方とか、何があっても揺れない自分をつくる作業だと思っているんです。だからやっぱり度胸だけですよ(笑)。

―― 光洋さんの即興はぜひ見たいですよ。失敗したっていいんですよ。

光洋 プランBの人がいうには、「月一で一年か二年やりましょう。即興だったらできるでしょ」と(笑)。

―― 準備はいらないし(笑)。

光洋 でも、やっぱり「もうちょっと待ってくださいよ」と。物を使って作品をつくることにもうちょっと自信がついたら、見切り発車でもやっちゃったら面白いかなぁ・・・。

―― そういうものは常に見切り発車でしかあり得ないでしょう。

光洋 公演を決めるときなんか、いつも見切り発車ですよ。絶対ないですから(笑)。何もない状態で・・・。「ほんとに出るのかよ」って、いつもですよ。
  三ヶ月ぐらい前から準備を始めるんですけれども、最初の一週間は、朝から晩までどれだけ考えても何も出てこないんです。もうそれがわかってきたんです。だんだん追い詰められてきて、「まずいまずいまずいまずい」と。
  作品にする作業って疲れるんですよね。したくないから、アイディアだけ書いておくんです。思いついたときにやればすぐわかることなんだけども、二〇か三〇とか、アイディアだけを書いておく。それを最初の一週間ぐらいでやって、「あ〜あ、全部無駄だった」(笑)。
  「どうするんだ、もう三ヶ月切ってるんだぞ」というところで、ダーッとつくっていくというのがいつもなんです。
  波があって、いいときは一週間で二、三本パッパッとできて、それからまた一週間何も出なかったりね。

―― 大変なプレッシャーですね。

 

(平成13年06月)

――つづく――

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